キックボクシング初心者のアラフィフが試合に出るまで
前回の記事
「形から入るタイプ」の中年おじさんがキックボクシングのアイテムを大人買い
若かりし頃はできなかった大人買いで、テンションが上がる!
キックボクシングにハマっていくアラフィフが、散財しながらも強くなっていく物語。
講座になじんで本格的に取り組む
おっさんの心は折れるどころか、より強くなっていた
今までの自分なら「この年で恥かく必要ないでしょ」とさらっと辞めてたかもしれないが、苦節25年のサラリーマン人生の知見によって、「恥や失敗を燃料にして人は成長すること」を知っているわたしは前に進むことを決意する。
結果として、今までのように他の講座に浮気することなく、同じ講座の同じ先生に教わることになる。
参加者は毎回5名くらいで、ほとんどがそこの柔術教室の生徒ということもあり、相変わらず浮いてはいたが、会話する機会は徐々に増えていった。
当然ながら、わたしのようなストアカからの新参者が2~3回のうち1回くらいの割合で参加してくる。
新参者と言っても空手やボクシング経験者もいるし、女性もいるし、初心者もいるわけだけど、彼らにわたしはどう見られているのか?
- その他の諸先輩方と同じベテランとして見られているのか?
- 同じ新参者の同志と思われているのか?
そんなしょーもないことを気にするようになってしまった。
講座はミット打ちをみっちりやることが多い。講師が参加者のミットを打ちを1時間かけて順番で受け続けるというシュールな内容。
当然講師は1人だけでサンドバッグもなにもない道場なので、1人がミット打ちしているときは他の参加者に見られることになる。
この「見られる」ことが、いつしかわたしにとってプレッシャーになっていた。
諸先輩方が繰り出すミットを打ち抜くパンチの音、空間を切り裂くミドルキックの音が、わたしを追い込んでいく。
そのときは「バチンバチンとデカくていい音が鳴ること」が正義だと思い込んでいたわたしは、すべての打撃をフルパワーで繰り出していく。
1時間のうち1分半のミット打ちが6~7回くらい回ってくるが、わたしだけ常に「ぜぇぜぇ」しているような気がしていた。
とにかく他人からどう思われているかを過剰に気にして、ある意味、追い込まれた状態になっていたのだろう。

グローブやレガース、ファイトショーツを格闘技ブランドで揃える
そんな「精神と時の部屋」のような重力3倍の時間を重ねていくうちに、わたしもいっぱしのキックボクサーのような動きができるようになっていた。
そして、少し余裕が出てくると変な色気がでてくるのが、人間のサガ。
諸先輩方の中にフランスの格闘技ブランド「VENUM(ベノム)」で全身をコーディネートしている70歳くらいの猛者がいて、かっこよかったのでわたしもVENUMのラッシュガードとファイトショーツを2セット大人買いして、3万円くらい散財することに。
ちなみに上下セットをVENUMに揃えて、家で着てみたら何とも言えない高揚感に包まれた。
「あれ、なんかオレ、かっこいいかもしれない・・・」
入場シーンをイメージして、和室を歩いてみたり、軽くシャドーボクシングしてみたり、もう完全にゾーンに入っていたようだ。
こうなるとさらにテンションが爆上がりして、おじさんの大人買いは終わらず、グローブやバンテージ、移動用のバッグなど爆買いする始末。
総合格闘技の経験者が勤務先にいた!そして初めてのスパーリング
月に2回くらいのペースで「精神と時の部屋」で修業していたオラ、いや、わたしに転機が訪れる。
勤務先のTさんが総合格闘技でプロを目指していたという情報を入手し、声をかけたところ、一緒に彼が通っているジムで練習しようという話に。
なんて言うか、どんどん「無敗のまま引退する」という夢に近づいているような気がしていた。
さらに、彼は特別な会員?らしく、他の会員がいない時間帯も使えるとのこと。
変に人見知り傾向があるわたしにとって、マンツーマンの方が人目を気にせずに没頭できるのでありがたい。
初めて格闘技のジムで一番驚いたことは、とんでもなくサンドバッグが固いことだった。
調子に乗って普通に蹴りまくってたらスネの皮がむけて出血。
「なんでレガース着けないの?」と言われるが、こちらとしては、「それ、先に言ってよ」となる。
各々身体を温めたあとにリングイン。ミットを持ってもらう。
まあ、わたしとしては「ミット打ちならまかしとけ!精神と時の部屋の修行の成果を見せてやる!」と意気揚々とパンチとキックを打ち込む。
- 打ち終わりは同じところにいないように
- 蹴りは「足を相手に放り投げる」イメージで
- すべての攻撃は全力で打ち込まない。
ミット打ちメインのストアカの指導と違って、より実践的なアドバイスが飛ぶ。なんとなく「それらしく」なってきた気がした。
そのあと、何ラウンドかやったあと、彼から「軽くスパーリングしてみようよ」と提案があった。
もちろんやってみたい気持ちはあるが、やっとことないし、マウスピースもないし、もしなんかあったらどうするんだ!という気持ちが宿る。
明らかにビビってるアラフィフであったが、ジムにはヘッドギアもあるし、「オレは当てないので安心して全力で打ってきていいよ!」というさわやかな笑顔を信じて人生初のスパーリングが始まった。
- とにかく、わたしの攻撃が当たらない
- 相手の攻撃が来ないと分かっていても怖くて目をつぶってしまう
- わたしの頭をトントンする「舐めプ」できるほど相手には余裕があった
初めてのスパーリングは、スパーリングとは呼べない、お遊戯みたな内容であったが、個人的には何とも言えない満足感があったことも事実。
ついにオレもここまで来たか
あえて言えば、スパーリングの内容なんてどうでもいいのだ。
スパーリングを初めてやったことに意義があった。
その後、帰りの電車でマウスピースやレガース、ファウルカップなど、スパーリングに必要なアイテムを大人買いしたことは言うまでもない。
以降、彼とは3回ほど一緒にトレーニングしたが、残念ながら彼は半年後に退職したため、そのままフェードアウトしてしまった。
よく考えれば、格闘技経験者から無料でパーソナルトレーニングを受けているようなものだったので、彼には今でも感謝している。
つづく